スクールレポート

#放課後の大濠 <第4回> スカイチューブは、今日も

大濠高校の正門側から校舎を見上げると、横一直線に伸びる巨大な円柱形が目に入る。
その筒の中を慌ただしく横切る生徒が見えるかもしれない。
スカイチューブ──大濠のシンボルとも言える施設だ。
その正体は、校舎の本館と西館とをつなぐ渡り廊下である。
そこからは見渡す景色は圧巻であr────

 ............いや、ちょっと盛りすぎか?

文芸部の部室でタブレットの画面と睨めっこしていた私は、はたと手を止める。
脳内で悪魔が意地悪くささやく。
「アンタ、本当にそんなこと考えてんの? ちょっと大袈裟すぎない?」と。
一方で、天使は必死に訴える。
「でも、〆切は明日よ! 早く書かなきゃ......ちょっとは目をつむりましょう!」

よーし、仕方ない。
〆切を破るくらいなら少々盛って書いてもいいか......
いや、嘘をつくのを勧めるなんて、私の中の天使って実は悪魔なのか......? 
と、訳の分からない事を考え出したところで、私はパイプ椅子から腰を浮かす。
原稿が進まない時は、体を動かした方がいいというのが持論だ。
私は溜め息をつきながら、部室の扉を開ける。

文芸部に広報用のエッセイ執筆の依頼が舞い込んできたのは、約2週間前のことだ。
私はスカイチューブを選んだのだが、びっくりするほど筆が進まなかった。
何というか、特筆すべき事項があまり無いように感じてしまったのだ。

もちろん、初めて通った時はかなり感動した。
入学式の直後のオリエンテーションだった気がする。
全面ガラス張りのスカイチューブに、言葉にならない感嘆の声が皆からあがった。
どこか観光名所のタワーの中のような、非日常的な雰囲気があった。

......
いや、今もあるはずだ。
日々の忙しさに追われて、その特別感を感じられないだけかも。

多くの生徒や先生達が毎日スカイチューブを移動する。
大濠の広々とした校舎は居心地が良いが、その分移動も大変だ。
校舎の西館で授業がある時には毎回チャイムに追われながら、そこを駆けていく。
放課後には部活生や生徒会役員の行き来が多くなる。
スカイチューブは声がよく響く。
行きかう生徒の明るい話し声は、そのまま学校の活気を表しているようだ。
だが、いつの間にか、ただの渡り廊下程度の認識になってしまった。

 

文芸部の部室を出て、スカイチューブの真ん中へ辿り着く。
ちょうど誰もおらず、ローファーの足音が、いつもより大きく反響する。
よく晴れた放課後だ。

そこから校舎側を見下ろすと、様々な生徒がいることに気づく。
一糸乱れぬ隊列を組んでマーチングの練習をする吹奏楽部。
階段ダッシュを繰り返すバスケッボール部。
筋トレで汗を流す陸上部。
帰宅中の生徒もちらほら見える。

皆、思い思いの放課後を過ごしている。
こんなありふれた日常も、いつか懐かしく感じる日が来るのだろうな、妙に感慨深くなってしまう。

 

学校生活って一言でまとめられてるけど、実はめちゃくちゃに忙しい。
新しかった制服も、ぴかぴかだったローファーも、輝いて見えた校舎も、特別だったスカイチューブも、その忙しさに押されていつの間にか「当たり前」になる。
そのかけがえのなさに気づくには、日々の流れは速すぎる。

 

時には少し立ち止まって、見晴らしの良い場所に行こう──

 

当たり前に思えるような大濠高校での学校生活だけど、その一つ一つがきっと全て特別だ。
縦横無尽に生徒が動き回る放課後の景色を眺めながら、そんな事を思った。

(高校3年 文芸部)


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