スクールレポート
#放課後の大濠 <第2回> 生徒ホールの、あの時間
中高共通2025(令和7)年7月9日
「え、じゃあ今度からここで食べない?」
そのひと言から、生徒ホールは私たちの集まる場所になった。
大濠中学での3年間の中学生活を終えた私たち。
「みんなクラス離れちゃったね」なんて笑い合いながら、高等部の制服に袖を通した。
少し前までチェック柄のスカートをはいていたのに、今は無地の高等部のスカートが驚くほど自然に似合っている。
ああ、もうそんなに成長したんだな、と友人を見て思った。
私たちが出会ったのは3年前。月日の流れの早さに少しだけ驚いた。
「高校になると階数増えてしんどいよね」と軽口を叩きながら迎えた新生活。
高校1年生のフロアは4階。
教室の窓からフロアの中央に目線をやると、7階まで吹き抜けの生徒ホールがあった。
天井の高い場所から差し込む光が、少しまぶしかった。
「ここって、文化祭くらいでしか来ないよね」
「うん。中学と高校でフロア分かれてるし」
「テーブル、意外と少ないかも?」
春のやわらかな空気の中、友人たちと生徒ホールで他愛のない会話をしていた。
「ここって、飲食OKなんだっけ?」
「いけるっぽいよ」
「...じゃあさ」
「今度から、ここでお昼食べない?」
誰が最初に言い出したのかは覚えていない。
でも、その言葉がきっかけだった。
12時30分に昼休みのチャイムが鳴ると、クラスメイトたちが一斉に走り出す。
通称「大濠ダッシュ」だ。
私たちはそれを見送ってから、少し遅れて生徒ホールへ向かう。
すぐに埋まってしまう、数の少ないテーブル。
いつもの友人の弁当箱と水筒を見つけて、場所を取っていてくれたことが伝わって嬉しくなる。
「あ、やっほ」
「お疲れさーん」
「眠いね〜」
ゆるく集まる友人たち。
弁当を開きながら、ぽつぽつと冗談を言い合う。
「さっきの授業なんだった?...あ、そりゃ眠いわ」
「今日は午前の授業は楽勝だけど、午後がきつい...」
「先生、今日めっちゃ機嫌悪くなかった?」
そんな、どうでもいいようなことばかり話していた。
「暑すぎ!」
「エアコンつけようよ〜」
「いや、ここ吹き抜けだから意味ないって」
「ちぇっ。職員室はいつも適温なのに」
「文化祭のとき、暑すぎて職員室に避難するよね」
「わかる〜」
天井が高く、開放的な構造の校舎。
その中心に位置する吹き抜けの生徒ホール。
夏は暑くて冷房が効かない。冬は寒くて風も吹き込んでくる。
特に冬は生徒ホールの利用者がぐんと減った。
「この寒さ無理、ほんとに死ぬ...」
「なんでこんなに冷えるん?」
そんな文句を言いながらも、私たちはいつもここに集まっていた。
暑い日も、寒い日も、晴れの日も、雨の日も、体育祭で日焼けした日も。
毎日のように同じメンバーで、同じ場所で、弁当を広げてだらだらと話し続けた。
何を話したかは覚えていない。
でも、そこにいた友人たちの表情だけは、今もはっきり思い出せる。
クラスが違う友達と過ごす、お昼休みの生徒ホールでの時間は私にとって何より貴重な時間だった。
話しても話しても、時間が足りなかった。
午前の授業も、午後の授業も、その合間のひと時の楽しみがあったから頑張れた。
今日あったこと、テストのこと、部活やイベントのこと、なんでも話した。
とにかく、皆と過ごせる昼休みが楽しみだった。
生徒ホールには、私の青春があった。
高校2年になった今、私は教室で同じクラスの友人たちと過ごしている。
今も毎日が楽しいし、つまらないなんて思ったことはない。
でも、ふと、今は使わなくなった生徒ホールでの時間を思い出して、懐かしくなる。
もう、別のクラスの友人と一緒にお昼を食べるのは難しい。
クラスの垣根を超えて、あの頃のように一緒に過ごせた時間。
生徒ホールは、そんな日々をくれた、かけがえのない場所だった。
あの時間は、高1だけの特別な時間だった。
もう同じような時間は戻ってこないかもしれない。
でも、あの時、一緒に笑った友人たちは、今もちゃんと隣にいてくれる。
(高校2年 匿名希望)