スクールレポート
#放課後の大濠 <第1回> 図書室、18時の夢
中高共通2025(令和7)年7月7日
吹奏楽部による生演奏が鳴り響き、何百人もの同い年の生徒たちが一堂に会した入学式から、早くも数週間。
初めはやっぱり緊張のせいか、元気のなかった教室も、
休み時間には談笑の声が廊下にまで響くくらいににぎやかになった。
友達はできるのだろうか...ちゃんと高校生活を楽しめるのだろうか...。
そんな不安を抱えていた私にも、友達と呼べる存在ができた。
きっかけは本当にささいなもの。
私と出席番号が近かった子が、
「その筆箱、可愛いね!」
と、にこやかに話しかけてくれたのが始まりだった。
お互い見知らぬ者同士。
最初はぎこちなくて当然だったけれど、委員会や係決め、入学してすぐの遠足を一緒に過ごすうちに、相手のことを知り、私のことも知ってもらって、そんなぎこちなさはあっという間になくなった。
今では休み時間に、推しのアイドルの話で盛り上がるほどの仲だ。
そんな私たちに待っていたのは、大濠に入学して初めて受ける中間考査。
結果は、残念ながらの大撃沈。
点数が返されるたびに友達と顔を見合わせ、ひどい点数にため息をつきながらも、赤点を切っていなかったことにほっとした。
悲惨な結果ではあったけれど、こればかりは仕方がないと言い訳させてほしい。
習う内容が、中学校のときよりもはるかに難しくなり、科目数も増えたのはいうまでもないが、先生の名前と顔を一致させたり、提出日がクラスによって異なる課題を把握したりなど、授業以外のことでも一苦労なのだ。
学校に慣れるまでの気疲れもあり、日々はあっという間に過ぎていってしまった。
次は頑張ろう。そう言って固い握手を交わして決意表明した私たちは、テスト2週間前から放課後に図書室で一緒に勉強することにした。
放課後まで勉強するなんて、私たちって偉い!
そんな自画自賛をしながら図書室に足を踏み入れた私たちだったけれど、目に飛び込んできた光景に、自然と声を小さくしていた。
(人、多くない? まだ2週間あるんだよ?)
(それな! みんな真面目すぎるでしょ!)
参考書に目を走らせ、シャーペンをガリガリと動かしている人たちの横を通り抜けて、少し奥の方にある、まだ人が少ない自習机の上にかばんを乗せた。
慣れない雰囲気に辺りをキョロキョロと見渡した私たちだったけれど、お互い何を言うわけでもなく、気がつくと自然とかばんから筆箱を取り出して参考書を広げ、シャーペンを手にしていた。
周りのことが気にならないほどの集中モードに入ってからしばらくたった頃。体を伸ばすためにグッと背伸びをすると、ちょうど隣で勉強していた友人と目が合った。
なんとも言えない可笑しさに顔を見合わせてクスリと笑う。
(ねぇ、あれ見て。あの人青チャートが付箋まみれ)
(スゴイね...。あそこの人はもう、赤本解いてるよ)
(あそこにいるのって、同じクラスの人じゃない? いつも騒がしくしてる...)
(確かに。でも何故か成績は良いっていう...)
私たちの間にしばらく会話はなかった。
誰もが人知れずに努力を重ねていること。
自分の夢をつかむために直向きに頑張っていること。
その事実を目の当たりにしたからだ。
私たちは、その後も黙々と勉強を進めた。
『図書委員のおすすめ』とか、『新たに入荷した本』などのブースの本を立ち読みしたり、たくさんある本の中から表紙がきれいなものを見つけてみたりと息抜きを交えながらも、わからないところを教え合った。
迎えた閉館時間。図書室の先生たちの呼びかけの声で、時計の針がとっくに18時を差していたことに気づかされた。
慌てて荷物をまとめて学校を後にした私たち。
日が暮れかかった空を見上げると、いつもよりずっとすっきりとした良い気分だった。きっと、こういうのを達成感、というのだろう。
「「また、明日も行こうね!」」
私たちは、自然と同じ言葉を口にしていた。
重ねる努力がすべて報われるかはわからない。テストの点数も、わずかにしか伸びないかもしれない。
だけど、あんなに頑張っている人たちがいるのに、頑張らないままで愚痴ばかりこぼしていたくはない。自分なりの最善を尽くしてみたい。
そう思えたから...。
私たちは、夢に向かって進み続ける。
時には悩み、迷いながらも、大切な友人や仲間たちと手を取り合って...。
みんな、笑顔で卒業していくために。
(高校2年 文芸部 匿名希望)
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